牛丼屋/アマメ庵
には大して使い途のない金だ
店外に出て、煙草を吸う
いつも、ここで一服
一昨年、社内が禁煙になった
去年には、通勤用も兼ねたハイエースも禁煙になった
過去のヤニの上に貼られた、禁煙ステッカー
ダウンの女性が出てくる。
「火、貸して貰えますか」
話かけられたのも、声を聞いたのも初めてだった
あぁ、 とか、うん、とか声にならない返事をして100円ライターを差し出す
彼女はハンドバッグからバージニアスリムを出して吸い付け
原色の電光看板に煙を吹きかけた
「ありがと」
俺の声にならない返事を聞くか聞かないか、
さっと振り返って、白いフィットに乗って行ってしまった
あれから、牛丼屋ではなんとなく彼女を探してしまう
いたり、いなかったり
やあやあと声をかけたりしないし、一緒のテーブルに座ったりしない
目が会えば、会釈して、彼女が目礼を返す
あるいは、携帯の画面を見たままこちらには気付かない
それだけだ
それでもあれから、少しだけ牛丼が美味しく感じる
彼女は、紅生姜みたいなもんかな
と思う
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