コガネムシ/mizunomadoka
雨に濡れた砂浜にビニール袋を敷いて
途切れなく続く紫の波濤を眺めていると
運動場の端にある雲梯の下で出会った
一匹のコガネムシのことを思い出した
あの頃の私は手に取るように虫の言葉が分かり
やれ花の蜜をくれ、水飲み場に連れて行ってくれと
スカートの裾をよじ登ってくる輩虫の多さに辟易していた
そんなときドングリを差し出し
「砂に絵を描いて見せてくれませんか?」と
話しかけてきたのが彼女だった
私は子供心にその真摯さに打たれ
当時、写生大会で特等をもらい飛ぶ鳥を落とす勢いだったこともあり
絵筆となる小枝を探してきて快諾した
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)