コガネムシ/mizunomadoka
 
雨に濡れた砂浜にビニール袋を敷いて

途切れなく続く紫の波濤を眺めていると

運動場の端にある雲梯の下で出会った

一匹のコガネムシのことを思い出した

あの頃の私は手に取るように虫の言葉が分かり

やれ花の蜜をくれ、水飲み場に連れて行ってくれと

スカートの裾をよじ登ってくる輩虫の多さに辟易していた

そんなときドングリを差し出し

「砂に絵を描いて見せてくれませんか?」と

話しかけてきたのが彼女だった

私は子供心にその真摯さに打たれ

当時、写生大会で特等をもらい飛ぶ鳥を落とす勢いだったこともあり

絵筆となる小枝を探してきて快諾した


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