青灰の夕暮れ/たちばなまこと
 
2月になりはしても 北方の冬は
大雪の屋根に腰掛けたまま
目を細めて今日も 微笑んでいる
南風の萌黄色のシフォンスカートを
夜明けごといたずらに ほつれさせながら

生まれた街では凍えるかもめが
氷点下
海風にあおられて春を呼びにゆく
夕刻には
テトラポットの先端で 暮れる海に鳴いていた

耳の分身を旅へやる
陸を目指す汽笛の 東西に染み入る短調がきこえた

冬はやんちゃな中年男の父親
寂しさを隠して笑うことしか出来ない
やはり寂しい青灰の夕暮れに
娘はいつか 淡い思い出だけを残して
六角形の結晶を散らせる船で
永遠に似た航路の ほうき星の尾を追いかける

氷河が降りてきそうな 青の気配
窓ガラスに透明水彩をのせて
色調とたわむれていたい つかの間
待ち焦がれていても
宝物と絡まり合っても
いざ と乗り込んだ船の上 夕暮れの青に浸され
染みたドレスに震える
くじけそうになる

気温差摂氏30度
意図だけは戸外へとすり抜ける
白い外壁は青灰に
はだかの木々は紫に
沈む
深海のおとぎ話を
生むように


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