救急室3/オダ カズヒコ
 
とを考えた。左手の薬指に指輪はなかったし、彼女と話せば、このあおぞら総合病院の事が、もっとよくわかるかもしれないな。

「オダさんって方はどちらですか?」

初老の紳士といった感じの小柄な医師が、黄色いシャツを着た丸顔の若い女性を伴って「救急室3」のぼくのベットに入ってきた。医師は神妙な面持ちでぼくの顔を覗き込んだ。患部を触り、幾つかの質問をしたあと、「ヘルペスですな、ヘルペス一型ですよ。皮膚科に案内しておきます」そういって、そそくさと出て行った。「皮膚科の先生を呼んでくるので、そのままそこでお待ち下さい。寝ていてくださって結構ですよ」丸顔の黄色いシャツの女性は頬を少し紅潮させながら言った。まだ見たところ、学生といった雰囲気だ。

少しガッカリしたぼくは、カーテンに貼られた「内科 オダさん」のメモを乱暴に剥ぎ取った。その裏側には、見知らぬ女性の名前と十一ケタの数字が、まるで暗号のようにぐるぐると書きなぐられていたのだ。
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