不可能な交換/オダ カズヒコ
 


ネズミハハツビョウシテイルノダ


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ネズミの陰嚢の中に挿入されたままの田村の頭を引き抜くとサマルカンドをゆくマラカンダのカールヴァーンと雌ラクダ十数頭が26秒間のストロボで私の中で灼けた。ギンギンの太陽が頭上に昇る頃。8月の日曜日。私はアパートの鍵を閉め、早稲田通りへ出てインド大使館前を通り、映画館の前でタバコに火を点けた。

遅れてのぶ子がやってきた。


「待った?」
「今来たところだよ」
「旦那は出張だから今日は大丈夫」

のぶ子がなんだか浮き浮きして晴れやかな顔をしている。私は地下室に残してきたネズミの干からびた死骸を思い出していた。揮発したホルマリンの匂いが左手についている。その手で私はのぶ子と手を繋いだ。


のぶ子は柔かに笑っている。

ネズミハハツビョウシテイルノダ
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