万能ではない鏡/千波 一也
 

鏡のうちにはあなたが映る
本当のあなたと
本当ではないあなたと
そのどちらにも当てはまるあなたと
どちらにも当てはまらないあなたが
映る

鏡のうちには時間が映る
過去と未来と現在と
それら総ての受容の風と
それら総ての拒絶の風と
白黒つけられない無風ならざる無風とが
映る

鏡のうちには鏡が映る
それを自覚するものも
自覚しないものも
強制も踏襲も不本意も
忘却も諦観も身仕度も
すべて映る
鏡として
映る

鏡は鏡に他ならず
鏡は鏡の任を全うせざるを得ない
それが鏡の万能を守り
同時にまた重大な欠落のあることを
鏡はその身に映し続ける
という理が
映る






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