緑から降る/木立 悟
とつ覚えたての感情に
野の色と同じ名をつけて
窓の光に並べている
背中を流れ落ちる音
指先へのぼりくる音を知る
ひとりの冬のかがやきの子
やがてひとつの音の他はしんとして
それを聴いているものもまた
しんとした音のひとつになる
氷を歩む音がするのに
そこには誰も見えはしない
そこには誰も居はしない
地平に白く重なる花が
いつしか見えなくなってゆくころ
海の上の雨は去り
子は空へかざした手のひらから
失くした狭間を埋めるように
透きとおる波が立ちのぼるのを見る
曇空に浮かぶ文字
昼の湖に沈む文字
とどろく力
ゆらめく力の満ち干きが
色あせた道に名をしるす
滴の心 波の心に触れてゆく子の
歩みと指先にかがやくかたち
若芽をつつむ翼の色は
冬という名の光のふるえ
冬という名の緑から降る
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