沼/島中 充
 
開き
鉛の薄黒い痕跡を残したのは 君だ
君が殺したのだ

ハイライトに火をつけて夕方のみなもを見ていた
昔のようにうすくさざ波が立ち
ホテイアオイの中からウシガエルが鳴いている
二十数年前 君がおこしたあやまちを拭い去るために
帰郷した僕は またこのみなもを見ている
やにわにギャーと悲鳴があがり水しぶきがあがった
1メートルもある巨大なオタマジャクシだった
尻尾を蛇のようにくねらせ 頭の手足をばたつかせたので
それがウシガエルのおしりにかみついた蛇だとわかった

ぼくは君と君の思い出を殺さなければならない
君が今どうしているか 問うことなどない
ただ君と君の思い出を蛇の住む沼に突き落とす
 
僕にはもう息子がいる 中学三年生になり
手淫を覚える年齢になった 
僕たちの過ちは中学三年生の時だった

僕は君を沼に突き落とす 君との思い出を蛇の住む沼に突き落とす 
しらを切るために 
僕の青春は 美しかったと
息子に伝えるため

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