パンツ来歴ーぼくらは人間1ー/イナエ
 
今日は可燃ゴミ収集日
ゆるゆるゴムのパンツを捨てる

魚肉の切れっ端や野菜葛の異臭にまみれたパンツ
カラス除けのネットを剥がし
顔色も変えずに集めてくれる若いあなたがいる

履き替える新しいパンツ

クレアランスの下着売り場には
滴る汗を下着に吸い取らせ
絵顔で売っているあなたがいる

寝静まった郊外の道路を
スーパーに向かってパンツを運ぶトラック
妻や子を家に残し夜を徹して運転するあなたがいる

遠い国では縫製マシンの音に埋もれて
ひたすら下着を作るあなたがいる
ぼくが履くとも知らないで

機械化された綿花の収穫
だが アフリカにはコットン・ピッカーに
負けないよう綿花を摘むあなたがいる

二十一世紀の地球では幾つもの国境を越え
幾人ものあなたの手が
ぼくに気持ちよくパンツをはかせる

電柱の上からぼくを見下ろし
アホーアホーと嗤っているカラスよ
お前の履くパンツを作るカラスはいるか
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