そういう子でした/千波 一也
 

大人の期待を裏切らぬよう
寡黙な少年を演じきりました

大人のあいだに流れる噂と
その発信源である
個々の大人の評判を傷つけぬよう
物言わぬ少年を守り抜きました

こころを開け、と命じられても
そのすべはとうに捨ててしまいました

それでもなお命じるのなら
返してください

剥奪したものを
一から返してください

誰にも聞かれない
誰にも見られない
求めた結果ではない秘密の部屋で
こころは開かれるのでした
そっと、あてどころなく

そういう子でした

わたしは
そういう子でした






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