フェノメノン/塔野夏子
私の中の
幽暗な領域に
潜むひとつの刻印
おそらくは私という存在の始源から
其処に深々と刻まれていた
その刻印からとめどなくあらわれる
何体ものファントム
美しいもの 醜いもの
華やかな衣装のもの 黒衣のもの
あるものは音楽を奏で
あるものは物語を語り
またあるものは何も云わず 何もせずただ佇む
何を云っているか何をしているか
さっぱりわからないものもいる
私は思う
君の中にも似た刻印が潜むと
そしてその刻印からもさまざまなファントムが
とめどなくあらわれていると
そして
いつか私と君との
幽暗な領域どうしが
ふとつながりあうかもしれないと
ファントムたちは行き交うだろう
それはきらびやかにもさびしい
ひとつの祝祭のような眺めだろう
そして私たちは聞くだろう
互いの刻印が感応しあい
煌きと痛みとに満ちた
誰も知らない音色で 響きあうのを
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