旧約蝶々/やまうちあつし
青年は、生まれながらにして沼の番人だった。訳も知らぬまま、彼はこれまでの人生を底のない一つの沼を守ることだけに費やしてきた。沼のほとりで乞食同然の生活を続けながら、近づこうとする者を追い払い続けるのである。
訪れる者の多くは、底無し沼を気味悪がって処理しようとする。ある者は廃物処理に有効利用しようと提案し、またある者は我が身を持て余し投身を試みた。その度に青年は強固に首を振らねばならなかった。この沼は、誰かが手を触れてよいものではないから。触れないままで、保存されるべきものだから。
ある時、一人の少女がその沼を訪れた。少女は、沼よりもその傍らで暮らす青年について、提案があった。言葉ととも
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