ノート(誰も 何も)/木立 悟
 





風が風で
風のままに風で
風以外のものすべてを
風に透している


焦げた港
暮れの青と水
人音の無い径
海に満ちる耳


空が空を剥がしてゆく
銀の彫像から
銀の煙が噴き出している
浪の頂を灰が跳ねる


跪き
水たまりの水を飲み
誰もいない窓をすぎ
誰もいない沼に着く


からだのあちこちが
むしり取られるように痛い
水の端から
水ではない視線が向けられている


斜めに昇る銀河 むらさき
空を覆う破けた弧
棲むものの無い方へ押し寄せる霧
誰も 何も顧みぬ背


白と黒の粒子のなか
今きた径を帰りゆく
足音さえ無い夜を
歩いてゆく

























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