ナニカ/草野大悟2
 
今の部署から資料整理室に移ってもらうことになってるから」
「そうですか……、分かりました」
「奥さん亡くして大変な時期だけど、頼むよ。僕にできることはないかな?」
「お心遣いありがとうございます。ご迷惑をお掛けいたしました」
 資料整理室は、定年間近の女子職員二人と五○過ぎの男性職員四人、それに新採の女子職員一人が配属されている部署で、そこの室長への異動は、出世の道が完全に閉ざされたことを意味していた。
 野津は、その日の帰りに実家に立ち寄り、資料室に異動になることを話した。
「見境なく女と関係してきた罰だ」、秀一郎がぽつりと呟いた時、隣にいた秋江が、ふん、というように顔を背けた。

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