ナニカ/草野大悟2
ナニカ』の姿がふっと消えた。
機関員がサイレンを吹鳴し、救急車を発車させた。ゴトン、ゴトンと、鈍い音が聞こえた。機関員は救急車を停車させ、車の外に飛び出した。野津も後に続いた。救急車の直ぐ後に、口から血を流して横たわっている理沙がいた。目は開けられたままで、かすかに笑っていた。粉雪がその体を包んでいった。
最上階の女は炬燵に入り、「行く年来る年」を見ていた。去年は彼氏と二人で見ていたことを思い出して、ふーっ、と大きなため息をついたその時、サイレンが鳴り響き外が騒がしくなった。「殺してやるー、その女殺してやるー、行かないでぇー、健一ぃー行かないでぇー」女の絶叫が響いてきた。
ベラン
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