ナニカ/草野大悟2
ち)のあたりがすっと冷たくなった。
文芸部では、原稿用紙三○枚の小説を月に一本書くことが義務付けられていた。理沙の書いた「狂気」という小説を読んだ野津は、彼女の深淵で蠢めく『ナニカ』を見たような気がした。
「狂気」は、恋人を男に奪われたレズの女が、男のペニスを切り取り、のたうち回る男の目の前で、バイブレーターを使ってかつての恋人を失神するまで容赦なく責め立てる、というあらすじだった。圧倒的な筆力で書かれたこの小説に対する合評会での批評は、残忍なまでの責めと女同士のセックス場面のリアリティーに集中した。それらを踏まえた上で、目新しいテーマではないものの、人の心の深淵に封印されている残虐性とそ
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