カレーの庶民 ★/atsuchan69
 
けると肌寒い靄が魔法のようにあらわれて少しばかり嬉しくなった。麦茶をコップに注いで、書き物をしているキッチンテーブルの上のノートに目をやる。パーカーの万年筆が開かれたノートの上に無造作に置かれてあり、それは「たった今、水とルーだけのカレーをアルマイトの鍋で作ってる途中だ」と記したばかりだった。水とルーだけのカレーというのは、戦後になって売り出された即席カレーのことなのだが、ほとんどの家庭では、肉と玉葱を炒めたあと人参と馬鈴薯をルーと一緒に煮込んで作るはずだ。冷たい麦茶を飲んで、首にかけたタオルで汗を拭く。カレーが煮えたら、茄子とキャベツの野菜炒めをそこへぶち込んでやるつもりなのだが、私のカレーの作
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