マッチと煉瓦とお伽噺/智鶴
『私の掌ではどうやら
弱弱しい明りを灯すのが精一杯で
家々の間をすり抜ける風に
ぼんやり浮かんだ姿も歪んでしまいそうです
辺りは賑やかで真っ暗で
まるで
幸せなお伽噺の途中みたいです』
昨夜の嵐は酷く哀しくて
読み聞かせたお伽噺も途切れながら
潤った明日を夢に見る
いつでも歌声だけは美しくて
煉瓦色の壁も蝋燭も懐かしいと
嘯くことで漸く貴方を思い出せた
朱い喜びの街には
白い冷たさが眩しすぎて
目が眩むほどのコントラストは
見捨てられた、例えば私のような悲哀を
都合良く隠すには丁度よかった
煉瓦の湿気た感触を頬に寄せて
誰かがくれた赤いマフラーで口
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)