小屋/草野大悟2
しているときも、彼女は微笑みながら僕の目をまっすぐ見つめていた。
中三のときに、父親の転勤で熊本に行ってしまった佐藤陽子とは、その後、全く連絡が取れなかった。お互い、住所も連絡先も何も分からなかったし、僕は携帯もスマホも持っていなかった。でも、陽子のことは、かたときも忘れたことはなかった。
僕の部屋には陽子の写真二枚が、額に入れて飾ってある。一枚は、中三になったばかりのころのクラス写真。彼女は、ショートカットの髪をきれいに分け、きっとした瞳で正面を見つめている。あのとき、「陽子ね、僕なんか、とかいう人嫌いだな」そういって僕を見据えた瞳がそこにある。
もう一枚は、レオタード姿でリボンを操
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