マディソン/雨伽シオン
 
いて私ときみとが肌を重ねることはない。きみはシーツの質感に私の肌を想い、ムスクの香りに抱かれて眠るがいい。
 そして私たちはきみの夢の中で交わるのだ。シーツをかぶせた上からきみの肌をヒールで踏みつければ、視界を奪われた君の脳裏には「アンダルシアの犬」が延々と流れ続けるだろう。アーマーリングをつけた指で背骨をなぞり、シーツの上に浮き出た骨を一つずつ数えてマニキュアで印をつける。九つ目まで数えたらシーツをはぎ取り、ムスクの香りでむせかえるきみを暴く。熟れた柘榴の実できみを汚し、さくらんぼの香る歯磨き粉をきみに塗りたくり、石鹸をきみの肌に滑らせる。そうして出来上がった香りの調合品をよそ目に、私は鋭いヒールを履いたままショパンを奏でよう。ペダルを踏むたびに音がきみの耳を震わせて、香りは一段と芳しく香る。夢が終わるとき、きみは思い出すだろう。きみの鎖骨のピアスには零番の刻印があることを。そして私がきみの所有する本の挿絵に描かれた女でしかないことを。
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