夜、入り江にて/平井容子
 

今日、月がもも色で
口をつぐむように鳴らす笛が
灯台の灯(ラフ)をかすめて
指どおりのよい
髪にまきつく

入りくちは浅くなめらかに
奥はとおくするどい爪のかたち…

荷をほどくように
飽きるほど泣いた光たちが
いつまでも水平線にたむろしている
やさしいものごとを運びながら

のくのくと規則ただしく波がうち
だれのためにも生きていけない夢が代謝する


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