サウダージ No./アラガイs
出所した二年目の夏に郷里の崖から身を投げてしまった 。仕事が決まり32才の誕生日を迎えたばかりだった。空き地が工場になれば就労者の声も巻き舌にかわる。郵便受けの下には名もない草花。命日は躊躇う。いまでも宛名のない手紙が投函されてくる。
母親が餓死したことを誰にも明かさなかったTさんを語る人はいない。生前のまま二年と半月わずかな母親の年金を受け取っていた。たまに居酒屋で見かけたTさんは陽気な爺さんで、口調はわるいが人一倍気を使うひとだった。結審を三日前にしてTさんは拘置所の便所で首を吊った。冬の踊場を浸る。朽ちた囲い。嘘つきは泥棒よりも軽いだろ?戸口の花束はいつまでも枯れていた。
2ビートにかわる。
寒さからか、また少し眠い。
忘れものはこのまま捨てればいいさ。
黄緑色の紙コップに残った珈琲を啜ると、茜色の日差しが上下に揺れてくる。開いた少女の瞳に大地が照り混んで、客の動きもあわただしくなれば、oi/***とリズムを刻む。サァにぎやかなお祭り騒ぎのはじまりだ。僕はいま故郷の裏側を目指して雲の中を飛んでいる 。
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