レブンアツモリソウ/イナエ
 

冬が去ったとは言え
霧に覆われ風にさらされる離島礼文
ようやく萌え始めた草の緑に
きりっとしまった白い袋
鎌倉武士の母衣が花開く 

かつては
ニシン漁の男たちが
往来を始める島の春
童達は道ばたに溢れる母衣を 
潰して遊んだと言う

  *白い母衣を膨らませ
  沖に浮かぶ味方の軍船に
  渚を急ぐ馬上の敦盛 
  敵将に呼び止められては
  後ろを見せられない武士の意地
  覚悟を決めて浜に戻り 組み討つも 
  荒くれ男に討ち取られ
   
アツモリソウで遊んだ童らは大人になり
群生する小山を有刺鉄線で囲んだ
この島に巨大な草食獣は居ない 

[次のページ]
戻る   Point(14)