レブンアツモリソウ/イナエ
冬が去ったとは言え
霧に覆われ風にさらされる離島礼文
ようやく萌え始めた草の緑に
きりっとしまった白い袋
鎌倉武士の母衣が花開く
かつては
ニシン漁の男たちが
往来を始める島の春
童達は道ばたに溢れる母衣を
潰して遊んだと言う
*白い母衣を膨らませ
沖に浮かぶ味方の軍船に
渚を急ぐ馬上の敦盛
敵将に呼び止められては
後ろを見せられない武士の意地
覚悟を決めて浜に戻り 組み討つも
荒くれ男に討ち取られ
アツモリソウで遊んだ童らは大人になり
群生する小山を有刺鉄線で囲んだ
この島に巨大な草食獣は居ない
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