焼きたてのパンに降りかかる悲劇/オダ カズヒコ
ハンカチで額の汗を拭う
時々の丸い指先で赤旗のページを繰り
知悉したような眼差しを周囲に向けるのだ
野生のクマに違いない・・
彼が街中に堂々といることに焦燥をおぼえた
容易に人間の中に溶け込み
そのアーモンド色の眼は
春空のようにしみじみと美しいのだ
ぼくは3年前に手放した
ヘンドリックを思い出していた
生きていれば彼くらい年頃になっているであろう
無くしたはずのものが
焦れったいほど世界を覆う
満員電車に揺れる
鉄製の吃音
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