「詩集」/ハァモニィベル
どうして?どうして・・・?
見えるのですか。
一体、貴方は何者ですか?
見えるのです。
夜、見つめている月のように
降り立つこともできず、近づくこともできぬまま、
ただ遠ざかるだけの月が、それでも貴女を見ているように
私には見えるのです。
貴女を、
いまは包みこんだまま、
見ているのです そして
こうして、
詩集を返しに来たのです。
でも、
せっかくですけど、わたし、
もう詩を書いてないのです。
あの日から・・・。
一年前の、
そう、この日。
貴女がここを通った日、
わたしは見ていたのです。
ここで、
これを、この、『詩集』を、貴女が落として征かれたのを。
だからまた、貴女に逢いにやって来た
こうやって今、貴女の詩集を届けるために。
私の詩が見える貴方。
不思議な方。
いったい、
どなた?
わたしに貴女の詩が見える理由(わけ)
それは、
わたし自身が・・・、
わたしの全身が、・・・、
《詩》だからです。
・・・・・。
男は名を残して去った。
男の名は―― 春。
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