待合室/マチネ
 
銀行の
待合室の
灰色の片隅で
女の子が泣いている

傍に腰かけた母親は
無言で書類を書いている
時折娘の頭を撫でたりしながら
けれども
娘はちっとも泣きやまない

待合室の私達は彼女の叫びを聞いている
どうしたのだろう
母親がなにかしたのかしら
それとも銀行が怖いのかしら
ここはあまりにも静かで、あの子にはおおきすぎるのだ

母親は相も変わらずペンを動かし
通帳から口座番号を写している
やはり、時々
娘の頭を撫でている

私達はその光景を涙ぐみながら無視し続けて
娘を憐れんでしまうのだ

母の片手は
とぎれとぎれであったとしても
娘の小さな体に
やさしく触れているというのに


母娘は去っていった
娘はいつまで泣いていたろう


私は知らない

私の隣に座りながら
眉を顰めて母親を睨んでいた
白髪の老婆も全然知らない

私も
老婆も
まだ受付番号を呼ばれていないのだ

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