バイオリンを弾く猫の絵のついたマグカップ/Lucy
 

しみじみ
語りかけたりした

ふと目の前に凍りついた路面
日陰だった
重心を預けた靴底が前へ滑って
上半身がついていかない

このままいくと頭を打つと
なぜかスローモーションで思って
右手をついた
アーこれやると腕折れるんだよと
やはりスローモーションで思って
 
肘に激痛
やっちまった
手首は・・?おそるおそる動かすと
手は動く
痛みはすぐに薄れていく
どうやら骨折は免れた

前から来たおじさんと
後ろから来たおばさんが
心配して声をかけてくれる
「大丈夫かい?」
「大丈夫でした。なんとか・・。」
腕をさすりながら立ち上がる

おじさんは笑って立ち去ったけど
おばさんはこの冬転んで手首を折った先輩だった
今もリハビリに通うと言う
少し一緒に歩きながら
おばさんのたいへんだったお話を聞く
「どうぞお大事に。ご心配いただいて
ありがとうございました。」

職場に着くと
思い出いっぱいのマグカップは
手提げの中で粉々に割れていた


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