満月みたいな街/ユッカ
 
は、欠けていく月を見るようでたのしかった
同情とか憐憫とか、そういう類いの感情はなかった
ただ、いつも澄ました顔して座ってるきみの声がみだれるのは、電話越しで
あんな風にさ、この世に大変なことなんてなんにもありません、って顔してるきみが
真夜中になると電話かけてきて、つらいとか、くるしいとか言うたびに、
あたしの中の何かを見透かされたような気になって、落ちついたんだよね

きみはあのときよく、うつくしくなりたいと言っていたよね
それで今度はあたしのことを、きみは揺らがないからうつくしい、とか言うんだ
でもそう言って震えているすがたはあたしをぐらつかせる
こんな夜の道路の真ん中で
きみの不安、きみの妥協、きみの怠惰、それはただただ正しくて
その正しさゆえにきみは弱く、間違いなくうつくしかったから
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