冬のオランウータン/末下りょう
 


ながい腕を、スロウに
交互に
霧の中

濡れた橙褐色の体毛を光らせ
密生する
樹々を
渡り 、

マレー語で
(森の人)
と、呼ばれ
酒を好み
人語を解す

ある親孝行な酒売りを森の奥深くで助け
富、地位、名誉を得させた
種族


森の
檻の中の 、
都市では
どんな風に
自分に似たイメージと成るのか

類人猿と
類人猿 、

時間を持った猿
時間を喪った猿


何度かこの森を歩いた気がする


人間とは別の季節のなかで
暗号にも似た独語を
樹のうえの巣に
うずくまり
繰り返す
森の人

鳥と水辺と
雲と星


急ぎすぎたぼくは
何処にも
たどり着けないまま 、
果実の皮を剥ぐ
喪われた者たちの
声帯の
縄張りから 、
翌朝には
追放されてしまったのだろう


口のなかの
フリスクだけが
わずかに
時間の匂いを、発していた

戻る   Point(2)