如月草/千波 一也
 

如月草をご存知ですか

たとえばそれは
荒野をわたる風のなか
ささやかに
桃いろに
揺られています

如月草をご存知ですか

たとえばそれは
星座をたどる指のさき
あやふやに
紫いろに
染められています

まだまだ遠い春なれど
まだまだ灯せる言葉があるなら
そろそろ
眠りはほころびます

だれかの背をつたい
だれかの肩をつたい
だれかの髪をつたい
静かな包みは
静かに
静かに
ほどかれゆくことでしょう

如月草をご存知ですか

たとえばそれは
名もない駅のかたわらで
したたかに
銀色に
呼ばれています

たとえばそれは
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