ミクロの脅威 マクロの奇跡/夏美かをる
織の中に
十億個もうじゃうじゃいるらしい
おぞましい勢いで日夜増殖を続け
父の内臓を次々に喰い尽くしていった
その不気味な生命体は
一体どこから生まれたのか?
何故父の体に宿らないといけなかったのか?
娘達のためにおにぎりを握るこの手にも
しぶとく残っているであろう細菌の数は
数千なのか? 数万なのか?
彼女達の免疫システムに頼るしかないとは
何と無力なことか!
宇宙に色々なものを飛ばす時代だというのに
ある日 理由も意味もなく生まれた
たくましい一匹のネズミによって
滅ぼされてしまうかもしれない地球
子宮口の外で待ち構えている現実は
淀んだミクロ空間から這い出てきた
無量大数の脅威に 四六時中晒されている
おぼつかない日常の連続
そこには答えなど何一つ用意されていない
それでも赤ん坊は生まれてくる
全身を真っ赤にして叫びながら
生まれてくる、ただ生まれてくるのだ
無防備な姿で 何もお構いなしに―
一秒間に二人とも四人とも言われている
その勢いこそ、
脈動するマクロ世界をまっすぐに貫く
たった一つの輝く奇跡
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