あなたの語る物語/keigo
 

ページをくる毎に
指先に宿る期待

ひとつ
またひとつと
言葉から漏れくる息遣いは
しなやかに強く
細部にまでわたる描写は
どこか温かい


あの物語を
まだ覚えてる

乱暴に書き連ねた
幾千もの僕の言葉を
甘い敗北感と共に葬った
あなたの語る物語は
それからというもの
僕の憧れだった


やがて大人になり
ほこりを被った本棚から取り出した
あなたの物語

高まる鼓動
固唾をのみ
僅かに震える手で
ページをくる
まるであの日の僕に
還ったように

あなたを試すつもりはなかった
僕は自分を試そうと
長い時を経て
再びあなたに挑んだのだ

絶望と向き合うあなたは
儚くて
綺麗で
どこまでも続くシンパシーは
やはり懐かしく

だけど
変わらぬ視座から
ずっと世界をみつめ続ける
あなたは
哀しいくらい無防備で
依然として
その場所におり

ただひたすらに
それが切ない

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