本の街へ/Seia
なぞり、スルー、なぞり、
スルー、背表紙をなぞり、手に取る。
ぱらり、ぱらりとめくる、
めくるめく本の中へ吸い込まれ、
る直前で閉じて、
そのまま棚に戻してしまう。
そしてまた歩いては迷い
歩いてを繰り返し歩き迷う
十字路を右にT字路を左に
古地図と春画の隙間に
入っては出て入っては
出てを何度か続けて
十数分後に浮かぶ(やっぱり)
Uターンして小走りで
値札と額縁を揺らし
傾斜のきつい階段を
三階、四階へと上がって
ひとつ、ふたつめの棚の前にいた
背表紙をなぞり、スルー、
せずに、手に取り、中身は見ない。
背表紙をつまんで、財布を出すまでの
記憶(短い数歩)は飛んでいて
引き寄せられたのだろう
私が選んだのではなく
後ろから首根っこを掴まれた。
初めて訪れた本の街は
誰かを捕まえようとする
透明な手で溢れていた
私を捕まえようとする
透明な手がうごめいていた
そして今もまだ私のうなじには
指の形をした五本の痣が残っている
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