最後の晩餐/自転車に乗れない女の子
最後の晩餐を食べ終えて
テーブルにスプーンを置くと
窓の向こうから
雪の音が聴こえてきました
冬が来たのですね
向かいあっていた老人が微笑むと
春は来ないのですね
隣にいたむすめは呟きました
最後の晩餐は鮭のお茶漬けで
錆びたスプーンでふやけたお米を
音もたてず掬いました
救われはしない
老人が静かに語り始めると
救世主なんていない
むすめは泣きわめきました
最後の晩餐を食べていたときも
老人が語りだしたときも
私は一人、
楽に消える方法を探していました
むすめの泣きわめく声で
雪の音は聴こえませんでしたが
そんなことは気になりませんでした
私はスプーンを手首に当てると
繰ることのない春を思います
そして少女と共に祈りました
すべての人に終わりが訪れますように
【最後の晩餐】
朝食には密かに
毒を盛った
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