嵐/白雨
 

しんとしずまりかえった部屋に林檎のざわめきが聞こえる。秒針が刻々と音を立てている。堪えられない抒情詩がわたしを誘惑して、わたしのなかにふと林檎への愛着が湧く。わたしは思わず林檎を撫でててみる、すると、それは心臓に伝染わり、線描のゆらぎの感触が鼓動を早めて、わたしはクライストになる。

林檎よ、おまえを撫でて撫でて撫でまわして得られるこの注射剤が、どうしてこうも革鞄へわたしの腕を走らせるのか。わたしは冷静さを失って革鞄の中身をぶちまける。鋏と三角定規が床で結婚して、遠くで汽笛が鳴るのを聞き分ける。
ああ、くそてけれ!わたしは床からうすっぺらいちいさな挟を握りしめて、想いきり林檎に殴りつける。

―どうしたことだろう、すると天井のシャンデリアから、無数の林檎が音を立てて転がり落ち林檎がわたしの脳天を打ち砕きやがて部屋中を林檎で満たして、わたしのクライスト性がすべて窓のしたに放流される。わたしは林檎の嵐に埋没して床にうずくまるだけであとはなにもしない。

分かったかい?
―これが、シュトルムウントドラングのすべてだよ。



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