「どうせ消耗戦」/宇野康平
 
手の震えは鼓動と世界と私の皮膚の境界線のずれで起る。

そう思いながら、

女は鏡を見て皺をなぞる。男は息子に何度も同じ過去の

話を語る。

ある日、女が死のうとして馴染みの川へ行くと、

川から

どんぶらこっこ

どんぶらこっこ

どんぶらこっこ

どんぶらこっこ

どんぶらこっこ

男が流れてきた。

腰を抜かしながら、ナマの死をみて女は詩が浮かんだ。

「毎日ふんだんに使ったせいで皮膚から血管に染み込んだ香水、

血管に流れる香水はセールの安物だから私の体臭はどうせ安物」

ポコっと怒りが浮かんだら腹がグーとなる。

女は死ぬこと忘れて二郎へ向かう。


《劣の足掻きより:http://mi-ni-ma-lism.seesaa.net/

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