春二編/梅昆布茶
 
tegami

手紙は来ない
無名戦士の墓に春が訪れ
風が花びらをそのうえに散り敷こうとも

ときどきその墓標を濡らした雨があがり
空をよこぎるように虹が橋を架けたとしても

乙女たちが花をささげ祈りの言葉を口にしたとしても
けっして刻まれることの無いその名前をそっと呼んでくれた
あの人の手紙は届かないまま

また幾度目かの春を
待つことだろう


sakura

もう歩けなくなった母を市内の病院へ連れて行った。
春だった。

病院のあるあたりは荒川の岸辺で桜の名所でもある。
診察のかえりに寄り道して桜の土手をゆっくり走る。

しきりに感嘆していた母を思い出す。

この春があと幾度来るのか考えていた。
それはたぶん母のほうがいくぶん早いだけであろうとも。

そんなふつうの春だった。




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