亡き従兄弟に捧げる/イナエ
紅葉した山腹に 村落が置き去りになって
その上空を横切る高速道路を車が飛んで行く
山に張り付いた林道が村落から延びて
水筒を肩からたすきに掛けた男が一人登っていた
確かこの道で 出会った
男は路傍に露出した玉ねぎのような摂理のー確か球状摂理と
言ったー石を眺めてつぶやいた
***
大陸の戦地から復員して間もないときだった
信奉してきたものが瓦解して 心は混沌を彷徨っていた
何か光を見付けたいと山奥深く踏み込んできた
林道の樹林を透かして 谷川へなだれ落ちる山の斜面に数軒
の村落がへばりついているのがみえ
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