眼差し/HAL
 
久しぶりにその眼に出逢ったのは
スーパーへ出かけビニール袋を両手に下げて帰ろうとしていたときだった

歩道の隅で停まったままの車椅子に乗っているひとがいた
その老いたひととぼくの眼が遇った

か細い視線だったけれど
ぼくはその視線がなにを伝えたいかを知っていた

だれかと話しをしたいという眼差し
どんなことでもいいから挨拶以上の声を交わしたいという眼差し

もう何年前になるだろうか
元居た業界に戻った頃 仕事の依頼はなく何日もだれとも話しをしなかったことがある

一週間に一度の通院
待ち合い室でぼくが座った壁際は天井から床まで鏡張りだった
そのときぼくは鏡に映る自
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