北の亡者/Again 2013神無月/たま
る
夜、も吉は長い前脚をわたしの両手に預けたまま、
まるでこのわたしにお辞儀をするかのようにコク
リ、コクリと三度、頭をふって息をひきとった。
まだ温かいおしっこがお腹のあたりから溢れ出て、
ようやく今生の苦しみから解放されたのだろう、
も吉は乾ききった口をとじて穏やかな顔をみせた。
も吉の死の衝動は父の死を超えて、わたしの頑
なな自意識を木っ端微塵に打ち砕いたのだった。
その夜から数年、わたしは幼い子供のように泣い
て暮らすことになる。そうしてようやく、死の受
けとめ方を知って、生きものたちの死を共有でき
るひとに、なることができた。
北の亡者というテーマが生まれたのは、も吉が
我が家にやってきた明くる年のことだから、も吉
がわたしのために与えてくれたテーマだと信じて
いる。でも、その、も吉はどこで、だれから、そ
のテーマを受けとったのだろうかと、つい考える
ことがあってふと気づいたことがある。
も吉がやってきた年、わたしの年齢は父の享年
と同い年だったのだ。
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