たとえば九月みそかの/もっぷ
 
なんにもない場所で佇んでいる冬とは対照的に
待ち望まれていた秋がシャンデリアのもと自意識過剰に笑みつつ
深夜の鏡に自分を映し深紅の薔薇へのまなざしをして
まだ気がついてはいない

季節風すら座り心地の良い秋の空の黄金に身を預けて
まだ気がついてはいない

冬もまた深夜の鏡をしのばせてあるその鞄をそっと
空の空白に置くだけでは済まされない熱を溜めつつあること

たとえば音も立てるとしようその鞄は白金の輝きすら詰められて
新しい光りは閉じ込められ続けるわけにはいかない
放熱への産道を正しくみつけるだろう

いまはなんにもないその場所だが確かに
近隣で絵描きの往来が日に日
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