誰かが誰かをわすれない/梅昆布茶
 
 
 白く煙る街
 追いやられた通り雨
 きみたちはあまやどりをしていた

 廃屋からきこえるメロディー
 甘く官能的にせつない果実
 雨音がいまも耳に残って
 すでに誰もいない

 世界は何枚もの薄絹をかさねるように
 追憶へと人を誘うもの

 夜が昼をわすれないように
 あの街をさまよう
 昼は夜を捜して涙をながす

 ひきはがされた皮膚はちりちりと痛いが
 張り裂ける魂を癒してくれるだろう

 恋はいつも嘘をしたがえてくるもの
 なぜならつねに巧妙にすりかえられてきたから

 ルシファーよ真実を横取りしないで
 せめて血の色の薔薇をなげてくれ
 世界が染まるような堕天使のほほえみを
 街角に立つ女のように魅惑的に

 もし許されるものならば

 街灯ののしたでマッチを擦り暖をとった少女のように
 夢をみつづけていたいんだ

 誰かを忘れないためにちいさな炎を灯したいんだ

 儚い約束を守るために



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