故郷神話/イナエ
1 青淵
朝霧を裂いて中空の鉄橋を渡る
電車に積み込まれた多くの人は
もう知らないだろうけれど
遙かに下を流れているこの川に
大勢の人が落ちた
所々にある澱んだ淵に
もぐったままの人が居て
雪解け水が波立ち流れるとき
川の表を掌がひらひら輝き
形の崩れた顔がゆれて叫ぶ
2 家霊
集落を持ち回る石臼で餅をつく脇に
正座して見ていた子供たちが親となって
石臼は物置で杵や釜 蒸籠らと
のし板や筵の影で昔話を繰り返す
築二百年を誇るこの家に
冬の白い月光が注ぐとき
押し入れの奥深く潜む
先祖の打った刀が青い光を放ち
大黒柱に貼り付いた
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