冬のくじら/
嘉野千尋
冬のくじらは島になりたかった
椰子の木を一本 背に飾って
あの人のために家を建て
そして浜辺を用意した
一人きりの夜に 歌を歌う
夜の海に細波と響くだけの歌を、
歌詞を忘れてしまって
メロディーだけの鼻歌を、
聞いてくれる誰かが
冬のくじらは欲しかった
だけど誰でもよかったわけじゃない
冬のくじらは
島になりたかった
もうどこへも行かなくていいのなら
あの人がいてくれるなら
南の大洋にくじらはひとり
冬のくじらは島になりたかった
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