夏の送別/梅昆布茶
 
てしまったが それでも街中しか知らない眼には 十分の緑に思われたのだ


君はこの山にへばりついた家が好きだった

アップダウンの激しい地形を車で走るたびに まるでジェットコースターみたいだねって

はしゃいでいたものだ

しかし冬ちょっと雪が降るだけでも

車が登らなくなるぐらいの傾斜が続く


僕は空の広さがとても気に入っていた 

夜の窓辺からのぞむ街の灯りが好きだった 星が近くに見えたし

君の息遣いもそばにあった

子供たちに混じって犬たちも転げまわっている


それは僕らの空間 僕らの時間と呼んで良い筈だった

琥珀のなかに閉じ込めてしまえば良かったのだろうか

たとえそれが幻像だとしても

喪失の深さとひきかえに

なにをおそれることがあったただろうか


いくつもの季節を味わい 小さな軋轢を重ねあって

それぞれの名前を忘れてゆく そんな場所があったことさえも

いずれ風化し去って消えてゆくものたちの

かたみさえも残さずに


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