夏の送別/梅昆布茶
てしまったが それでも街中しか知らない眼には 十分の緑に思われたのだ
君はこの山にへばりついた家が好きだった
アップダウンの激しい地形を車で走るたびに まるでジェットコースターみたいだねって
はしゃいでいたものだ
しかし冬ちょっと雪が降るだけでも
車が登らなくなるぐらいの傾斜が続く
僕は空の広さがとても気に入っていた
夜の窓辺からのぞむ街の灯りが好きだった 星が近くに見えたし
君の息遣いもそばにあった
子供たちに混じって犬たちも転げまわっている
それは僕らの空間 僕らの時間と呼んで良い筈だった
琥珀のなかに閉じ込めてしまえば良かったのだろうか
たとえそれが幻像だとしても
喪失の深さとひきかえに
なにをおそれることがあったただろうか
いくつもの季節を味わい 小さな軋轢を重ねあって
それぞれの名前を忘れてゆく そんな場所があったことさえも
いずれ風化し去って消えてゆくものたちの
かたみさえも残さずに
戻る 編 削 Point(15)