山の水/yo-yo
 
山の水があつまる
わんどの深みに
ザリガニのむき身を放りこむ
暗い川底が
ぐるるんと動いた夏

七輪でおばあさんが焼く
ナマズの蒲焼き
田んぼの畦を吹きわたって
麦わら帽子の
ひさしをかすめて

いくつもの夏が
細い野道を帰ってゆくようだ

虫になって草を分ける
小さな山を越え
小さな山に辿りつく
足の下の土がやわらかい
そこに
おばあさんは眠る

わんどの水を焦がして
ナマズの風になる

夏は
山の水が澄みわたるので
遠い川が近くなる
ときどき夢からあふれて
黒い生きものが泥をまきあげる
水の底が
空よりも深くなる






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