夏、プールにて。/時子
 
缶をトロに向かって思いきり投げ付けた。 
トロはトロい。 
缶はトロのお腹に当たり、トロは悲鳴をあげて逃げた。 
「ちょっと君!!何してるの!!」と後ろから知らない女の人に叫ばれ、僕も逃げた。 
松葉杖の足は、逃げるのを許さないように重かった。 
ごめんなさい。 
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。 
トロごめん。わかってるよ、ごめん。 
ごめんな。 
走って走って、涙で息が出来なくなった。 
僕はまた謝っている。 
薄暗い道で何度も転んだ。その度に右足が痛んだが、引きずって逃げた。 
長い時間をかけて行き着いたのは、白い月の浮かぶ夜のプールだっ
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