クロスプレイ/八月の秒針/佐東
 
アウト
一点差
ランナー無し

ネクストサークルで
素振りを繰り返す
秒針



* * * * *



((八回裏ワンナウト三塁、八番バッターの打った打球は思いのほか伸びて、レフトフェンスギリギリまで下がった。積乱雲から分裂した小さな球状の細胞は、みるみる大きくなってきて、そいつは野手全員のグラブを併せても捕れない大きさでグラウンドを覆い尽くした。レフトの定位置で、羽化したての蝉が、まだ皺の残る翅に水分を送っている音がしている。夏の間聴いていた気がするんだけど、よく覚えていない。))



* * * * *



気の遠くなるほど暑い
ベースランニングのかけ声だけが
白く日焼けしたグラウンドの隅で
背番号のない夏の影を
蘇生させる















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