海まで遠く離れている/佐東
 
絶え絶えに
満ち潮を見せて下さい
と懇願された
あいにくと
海へゆく便がなかったので
浴槽に少し温めのお湯を張って
食塩を溶かし込んだ

ほら
君の海だよ

声をかけると
安心したように
眠りについた

あれは
いつの夏のことだったか






(夏の音を聴いている
指を折り
波の来歴を数えている)






去年の夏
遠浅の子どもを
さらってきてから
ずっと
ポケットに隠しておりました
歩くたびに
みゅうみゅう、と
音がするのは
背をまるめて泣いている
砂の声です








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