どろたぼう/佐東
 
なっていた
もー と鳴く奴だ
眼が合ってしまった
私は軽く会釈をする
牛は草を食んでいる
草に見える若草色のカーペットの生地かもしれない
のんびりと反芻している
もー!と鳴く
私がもー!と泣きたい

諦めた笑みを浮かべながら
すっかり棚田へと変貌した階段を足早に下へ
するとキッチンの妻の
「炊飯器の中が葡萄棚だわ、これじゃ朝食が用意出来ないじゃない!」
ぼやく言葉は完全に玉葱と化していた

朝食を諦めて締めたネクタイがかんぴょうに変わっているのも気にせず
車のセルモーターを回す
が うんともすんとも言わない
それもその筈
車のエンジンには琉球朝顔の蔓がびっし
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